東武鉄道杯本線埼玉・東京大会決勝トーナメント2日目  (前編)

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


 わあ。やっべ。

 6時50分集合はU-7にはあまりない早さ、大慌てでシャワーの歯磨きの、ダメだトーストしている時間がない、バナナとやっぱりゆで卵も食べていこう、あとは時計だ時計どこよ時計って、もうしてるじゃないかと次はカギがどうしたよと、そんなこんなの早足で校門についたのは2分前。


 校門に吉田コーチがふらっと、うろうろと。

「おはようございます」に食い気味に「ショアが発熱で」。

 え*%&# 

 中盤からバイタルを斜めにぶっちぎるあのドリブル。あのパンチ力。あの献身的なプレス。なによりずっと一緒の仲間が今日はいないのか…

「でも、大丈夫でしょ、いるメンバーでやれる」とこちらの返事を待たずに吉田コーチ。それは確かに。でも、いや、そう… やれるでしょ。やれるやれる。やれるって。


 どんでもない大熱戦となった2回戦から2週間、東武鉄道杯本線埼玉・東京大会決勝トーナメント2日目はこんな、波乱含みに幕が開いたのでした。


 しゅうごぉ~~~~。


 朝の挨拶、おはようございます。今日2つ勝って8年ぶりに本大会!と。

 そんなこと今言われなくてもわかってるだろうし、その意味とか価値とかは今言われたってわかんないだろうけど、やっぱり言わずにはいられない。

 内心では更に、たのむぜ5年、お前らならできるとか信じてるとか死ぬまで走れとかキモチでは負けるなとか、合理性のかけらもない言葉が浮いたり沈んだりしていたけれど、朝っぱらからそんなやぶからぼうはさすがに自重する。


 団バスで春日部までの小一時間、選手たちの静かなこと。大きな大会ならではの緊張感。でもそれにしたって静かだな。


 1試合目の相手は、市内のライバル、新田FCさん。

 11月の交流大会前期3位決定戦では3-0で快勝、しかし、その1週間後のイースタンリーグでは0-3でしっかりリベンジされてしまいました。その時こちらは新人戦に向けて試行錯誤の最中で、ボール出しが定まらないところを狙われ、ショートカウンター3発。

 2週間前見た時も同じく布陣は4-2-1、キャプテンで2の右の10がこの代では市内屈指の選手。2のもう一人17もスピードあり。すきあらばやられる。後ろの4はひたすら堅実。余分なことは一切しない。右CBの8にフリーで蹴らせると、ラインの裏まで飛ばされて、ちょっと面倒くさいことになる。

 特に先制されると厄介で、びっちり引いて人数かけて粘り強く守り始める。ボールを持たれてもなんともない。こうなるとなかなか崩せなくて、焦れて人数かけると、10に引っ掛けられてショートカウンター。

 2週間前の2回戦もこの展開で、地力は上に見える相手に引き分けに持ち込んでPK勝ち。今回のワールドカップ以降、これもありというチームは増えていると思う。それはある面ではサッカー文化の成熟とも言えるけど…

 草加東的にも割り切って蹴ってひっくり返してくるチームに苦戦して、思わぬとところで痛い目に合う負の歴史もあり、実際直近で負けてもいるわけで、要するに、ヤだなぁ、と。

 普通にやれば勝てる筈なのにとしばしば思い、でも相手にしたら我らの普通は普通ではなくて、相手の普通に押し切られて泣く選手たちを見つめ続けて幾星霜、とまではいかずとも、そこも含めてなんとかしようと新人戦で新しい取り組みをしたわけで、だとすればなおのこと、ここで新田さんに負けるわけにはいかない。

 ましてやこのSNS時代、インスタなんかで勝ち誇られたら団員獲得にだって影響が出かねない。市内のチーム、隣のチームにそんなことされてはならじ。

 

 と、考えるほど、はからずもいろんなことが懸かってしまったように思えて、だいぶ気が気じゃなくなってきた。代表者会議も気もそぞろ、どうだアップの雰囲気はというと、なんだか急に鬼ごっこ始めたぞ。

 吉田コーチによれば、やっぱりどうにもたいへん硬かった。静寂の団バスからそのままに、特に気持ちがね。これはいけないと、初の試み、アップで鬼ごっこ。

 U-7だってそこまではしないが、背に腹は代えられぬ。子どもじゃないんだからって思う間もなくU-11とはいえさすがに子ども、少しづつほぐれてきた様子。そうそう、笑顔は大事よね。リラックスしつつ強度を上げるのがベストよね。


 ひとまず固く行きましょう。強度で負けない、割り切って弾けるユウシンを後ろ中央。両脇は前回素晴らしかったマヒとリュウセイを継続で。アキとショウゴが2列目、前にカケとオリ。

 そうだね、ひとまずそれで行こう。

 オリ、兄貴の分まで頑張れよって、ところが全く素知らぬ風で、そうだ確かにお前はそういう奴だ。ここまで来たら逆に頼もしいな。


 さぁ、行くぜ。

 キック・オフ!

 まずはロングボールの弾き合いから、20秒、CBとキーパーの間にボールがこぼれて、草加東最初のシュートチャンスも、カケ、届かず。

 2分、新田のコーナーもエリア内には2人、エリアの外に1人しか来ない。やっぱりそういうことか。

 そこからしばらく2本目のパスがつながらない時間。ボールを確保して、前にボールを入れても数的不利で潰されて起点になれない。では中盤で動かしてと思うとそこは同数なので絡まれると厄介。

 5分手前、こちらのサイドバックに少し余裕のある局面が連続。リュウセイは安全重視の立ち上がりの流れでボールを前に入れてしまうが、ベンチからは“運ぼう!”のコーチング。

 そうだ、死闘の2回戦でも、目の前に空いた5mをドリブルで運び始めて流れを引き寄せられたのだった。自分で運んで相手を動かす。

 でもまだなにかフワっとしてる。

 6分、スローインのリターンをもらったリュウセイ、顔を上げてサイドチェンジ。ナイスアイデア。そのボールをオリが確保しかけたところでショウゴ、オリに食いついた相手の裏へフリーラン!落としを受けたマヒからショウゴ、カバーにきたCBを交わして斜めにゴール前に流し込むも、誰も届かず。良い連動!

 8分、中盤で確保したアキからユウシンに下げ、サイドを変えてマヒ。ここが必ずフリーになる。マヒ、しっかり運んで時間を作り、オリが外へ逃げて空けたスペースに入り込んだショウゴを狙うも合わず。

 9分過ぎ、セカンドの浮き球の処理でハンドを取られ、自陣センターサークル付近でFK。難なく弾くが、セカンドを拾われエリア内の10番の足元、スムースなターンからシュートされるも枠の外。微妙に嫌な感じ。

 12分、相手スローインから10がターンでマークを剥がし、17へのパスは後ろ方向にズレるが、17、食いついたリュウセイをブロックしてターンしてゴールを向く。加速する手前でアキが絡み、ユウシンがクリアして事なきを得る.

  でも、逆サイド、左SBが初めて草加東陣内にオーバーラップしてきていて、そこに気付かれていたらちょっとスリリングだった。

 何かがちょっと噛み合わない。

 14分、マヒの横パスに絡まれてからのロングの蹴り合い、そこからセカンドが17にこぼれドリブルで半身抜け出されペナ外あたりからシュートも威力なく枠外。

 15分、吉田コーチ、オリとマヒの前後を入れ替え。サイドの後ろに時間があるので、そこでボールを持った時に何かして欲しいこと、前で起点とセカンド争いに走って体を張って欲しいこと。

 これが好手だった。

 18分、スローインからショウゴとユウシンを経由してサイドチェンジを受けたオリ、1枚ドリブルで剥がして前進、前に流し込んだボールにマヒが粘ってクロスを上げるも、その前にライン・オーバー。

 19分、相手ゴールキックからのこぼれをオリが確保してユウシンに下げる。リュウセイにサイドチェンジ、バックスステップで体の向きを作り、飛び込んできた相手をかわして時間を作って、隙間に入ってきたショウゴに当てる。

 ショウゴからライン際の前向きのアキに落としてクロス。マヒが絡むも触れず。流れのセカンドをオリがシュートもヒットせず威力なく、クリア。それでも波状攻撃ができてきた。

 流れたクリアボールをリョウマからリュウセイに振り直し、裏狙いのロングは相手に弾かれるが、それを拾ったショウゴから逃げる動きのマヒにスルーボール。マヒは触れずも、その裏を走ったオリ!だが、トラップ大きく、キーパーがキャッチ。

 前半終了。


 旗判定だったら完全にこちら。ラスト5分でゴールにも近づいた。でもまだ0-0。緊張感高し。ちゃんとネットを揺らさないとまた厄介なことになる。継続、強度、集中! 

 そこで、監督曰く、楽しいネ!こういうゲームがしたかったよネ!さぁ後半も楽しんで、勝つゾ!だって。そんなこと言われてもなって、ユウシンちょっと失笑しやがった。

 まぁね。そりゃそうだ。でもこの緊張感を楽しむのは大事よ、と、でも5年生にはまだ早いよね。

 

 さあ後半!

 トップが替わって7番イン。ドリブラーらしい。

 21分、7番が拾ってドリブル開始、確かに速い。思わずアキ、ファール。FKは壁。

 22分、セカンド争いからこぼれを確保したユウシン、ターン、そして動き出したマヒを狙いすましたスルーボール!惜しくも届かずキーパー、クリア。

 そのクリアをユウシンが弾き、オリが確保、ショウゴからリュウセイ、ドリブルでリュウセイが一人剥がしてカケ、からディフェンスの間を走ったショウゴへスルーボール!折り返しはゴール前を横切るも、誰も触れず。

 ここからしばらく、相手を押し込めた。トイメンが出てこないのをいいことに、オリが無頓着かつ敢然と高い位置に進出、ひとつ内側のマヒとのコンビにアキも絡んで左サイドを蹂躙。

 途中、こぼれ球に対応したGKリョウマが出しどころを探している間に絡まれ少しヒヤッとしたが…

 27分、ちょっとアバウトなクリアをチェイスしたマヒ、競り勝って抜け出してシュート!ヒットしたがキーパー、ファインセーブ。

 28分、たて続けのコーナー、悪くないボールが上がっているが、触れず。その流れでスローインを受けてオリト、DFに阻まれても、ボールをうまく隠しながら粘ってドリブルも抉りきれず。それでも繰り返しでもう少しで…

 次のスローインはトラップ際をさらわれ、クリアされるが、リュウセイが確保、ショウゴにつけると振り向いてミドル! 

 キーパー、ファンブル! マヒ、よく詰めていたが、触れず、それでもライン際でボールを確保、オリトに落としてクロス、ハンド!エリア内!

 PK!

 何も言われなくても迷いなく出てきてボールを拾ったユウシン、祈りを込めてセット。落ち着いて、間合いをとって、右インサイド、右隅!

 先制。

 さすがだね。ゆっくりと最後尾から歩いてくるところなんか、レスラーの入場シーンみたいだったな。テーマ曲、聴こえたね。チームを背負って蹴るのは俺だ、という、役者よのう。

 だけど、この、3時間後、いや、それは少し置いておいて。

 ゲーム再開。相手キックオフのロングボールを確保したショウゴ、左から中央に斜めにドリブル、中盤で相手を引き付けて、デイフェンスライン左裏にスルーボール。マヒ、ライン際で追いついてクロスも、力なし。

 キーパーのパントを弾いてセカンド、ショウゴからオリ、逆サイドのライン裏へ斜めのクロスもズレてキーパーに。

 32分、自陣右サイドからの相手FKは直接キーパーがキャッチ。そこからのパント、セカンドの取り合いから足元に収めたリュウセイ、ドリブルで中盤に侵入、カケとのワンツーを狙うもツーが戻らず。

 しかしそれをカウンタープレスで即時奪回、ユウシンに落として、対角裏を狙うもミスキック。

 33分、ユウシンが弾いたボールがマヒ、体を上手く使って確保して前進、相手CBに突かれるがこぼれたところをオリがナイスフォロー、中のマヒへ。

 マヒ、ゴール方向へナイス・トラップ、半身抜け出してシュートも反対ポスト際、枠外。惜しい! 

 34分、オフサイドからの新田FKが左サイド奥に流れ、リュウセイと17の走り合い。リュウセイ、スリップ!

 17、ゴールライン際でフリーでボールは足元、顔上げてクロスも、ユウシン落ち着いて対応、戻ったショウゴ、コースに入りカット。10が拾って、横に流すが、オリがカット。

 そのセカンドにカケが絡みオリからマヒの足元。短くドリブルからカケにワン、中に走ったショウゴを囮に、ツーがマヒに戻る。マヒ、今度はカケを飛ばしてその外を走ったアキへ。

 アキ、ドリブルから逆サイド外を走っていたオリにグラウンダーのクロス、やや流れて、キーパー。微妙に偶然っぽいけど5人が絡んだちょっとワクワクなカウンター!

 37分、センターサークル付近でファールを取られたFKの流れから、ペナ外あたりで7にボールが入り、仕掛けられるがユウシン冷静に対応、今度はロングでライン裏、カケが抜け出すもGK飛び出してクリア。

 それをオリが対応、左奥に流し込んでマヒがチェイス。スローイン。アキからオリで、クロスもコーナーに逃げられる。

 カケout レイ in。

 アキのキックは走り込んだショウゴの足に当たり、再びペナ左外のアキに流れる。

 アキ、狙いすましてダイレクト、右インサイド! 弾道鋭くキーパーの手をかすめてサイドネット! ゴラッソ!

 2-0!

 さぁあと少し、最後まできっちり。キックオフからのセカンド合戦を制してレイ、細かいタッチで前を向いて、左を走ったオリに斜めに流し込むもオフサイド。そこからは出足鋭くセカンドを取りまくって相手を押し込んで、無事タイムアップ。

 

 むぅ。

 ナイスゲーム。前半の前半、何かちょっとフワッと、焦点が定まらない感触もあったけど、左サイドのポジション変更を契機に、はっきり押し込んでゲームを進められたと思う。引いた相手に局面で人数かけて崩すこともできたし、その際のカウンタープレスも、後方の備えも悪くなかった。

 保持から繋いで崩す選択をして欲しかった場面も少なからずあったけど、大事なトーナメントはえてしてこんなもの。

 さあ、次こそが大一番。これに勝ったら、8年ぶり本大会進出だぜ。

 約3時間空き。クールダウンして、一旦リラックスして軽食だ。


 次の相手はこの次の試合、アスレテンテ加須 vs すみだSC業平 の勝者。アスレンテ加須さんとは予選で当たって、こちらは2位通過の目論見があったとはいえ、0-5で負けてる。

 すみだSC業平さんは2回戦でヴェルメリオさんにPK勝ち。ヴェルメリオさんとは一度TRMでやったりとったり、でもちょっと分が良かったかな。

 だとすれば、アスレンテさんが上がってくるだろうと、それは相当めんどくさいぞと思っていたのだけど…

 目を引いたのは緑のトップ、10。良い意味で前線をふらふらしながら、狙っている。ラインの裏、もしくは人の少ないところで受けてドリブル勝負。速い。上体の力が抜けていて自在に方向が変えられる。5年でこの雰囲気はなかなか小癪。

 それから17。こちらはウィング。ドリブルの切れとスピード。それと、プレスに行くときの強度。2人でギュンとギアを上げる。いやらしい。

 ボランチの77。必ず一旦ボールを預かって、中央からドリブルで運ぶ。キープ力、推進力。プレスを剥がし相手を引き付けてから展開する。来なければそのまま突撃する。独特。セオリーにはない戦い方。

 この3人、チームの実力より個人の戦闘力がより強く表現されていて、見ようによっては鼻持ちならなくもない。ジュニアだったらもっとチームでいいんじゃないかとも思うけど、ジュニアだから自分もろ出しでもいいのかいう気もするし。微妙だな… 

 と、緑のプレイヤーの方が目に付くし、攻め込んでもいるのだけど、なかなか入らない。もしかして実はシュートが下手?いや、キーパーが上手いのか。だいぶ声も出てるしな。

 あのキーパー、ラヴィーダに決まってるそうです。

 あ、そうなんだ。ていうか、そうするとオレンジがアスレンテ、緑がすみだなのか。

 そうこうしているうちにミスがらみでオレンジが先制、そのままリードして前半終了。

 ほう。

 試合としてはなかなか面白い。アスレンテさん、ちょっとフワッとしたところもあるけれど、これは何か思惑があるのか。ハーフタイム、すみださんはだいぶネジ巻いてる気配がする。

 後半開始。ああ、すみださん、変えてきた。17をはっきりサイドに張らせてる。アスレンテさんのディフェンスがボールサイドに相当寄せるので、ぽつんとサイドでフリーで待っている形。

 ボール周辺でプレスが効いていればそこに出てこないので問題ないのだけど、逃げられて展開されると途端にピンチになる。そのために、77のドリブルが威力を発揮するという設計かと。

 まぁ元からそういうことなんだろうけど、ちゃんと徹底するように修正したってところかもしれない。

 でも、その修正とはあまり関係なさそうなカウンターとセットプレー(だったと思うけど違うかも)で2点。試合をひっくり返した。

 アスレンテさんも、父母の反応を見るとジョーカーらしい選手を入れて反撃しようとしますがかなわず、ゲームセット。そうか…


 逆転した。

 すみだ? そう。まずは10をどうするかだね。

 CBをショウゴにしましょう。走り合いになったときにも対応できる。

 17。

 サイドはまたマヒとリュウセイかな。で77にはアキとユウシンで、やらせない。

 オリとカケは。

 はっきりオリがトップ下ですね。

 

 ここからマケマケ戦があって、表彰式やって、それからだからまだ2時間ぐらい。ひとまずお昼は牛丼です。

  

 タクミの時もここでしたよね、とユウシン母が言う。

 そうだね。

 あの時もこれで勝ったら本大会で。

 そうそう。

 でも相手も強くって。ずっと攻められてて。

 幸松ね。あの年は強かった。でも凌いで凌いで。

 で、テルヤが決めて、ベンチに走ってって、矢島コーチと抱き合って。

 乾坤一擲これぞカウンター。ハルから逆サイドのテルヤ。後半の後半で。

 勝ったと思ったんだけどなあ

 ラストワンプレーね。

 ほんのもう少し。

 泣いたな…

 

 5年前。もしかしたらユウシンはその時居たのかもな。ラストワンプレーで追いつかれて、PK負け。本大会出場はならず。大事だからもう1回。ラストワンプレーで追いつかれて、PK負け。本大会出場はならず。


 あとラストワンプレーで思い出すのがハヤテたちの時の彦成戦だよ

 スカイパーク。

 そう。少年団大会。勝てば県大。

 オフサイドね。

 

 そう、あれはオフサイド。でも覆ることはない。間違っていても敗けは敗け。


 あと、あれもあるよと団長が言う。

 番匠免で、ほら、エビハラの時の。越F。

 あああ、押されて押されて押されて押されて、でもラスト1分で2点とって逆転したやつ。

 越Fの選手がボール叩きつけてイエローだされたやつ。


 だから、最後まであきらめてはいけない。

 でも、最後まで気を抜いてはいけない、と本当にわかっていたのか。何が起こるかわからないって、それだけはわかっていたはずじゃなかったか。

 幸運の女神には前髪しかない。だから、その一瞬に全力で掴まなければならない。

 

 選手たちがサッカーテニスでじゃれている。

 リュウセイとタクミがスローインの練習をしている。練習ではできるのよ。まったく問題ないんだよ。本番だとやっぱり慌てるんだな。

 ツーがお父さんとボールを蹴っている。5年後、ツーは今日のことを覚えているかしら。ツーの代はここまで来られるくらい、強いチームになっているかしら。

 

 さてさて、そろそろ始めるか。

 と思ったら、金網の向こうにボルボ登場。ショアじゃん。熱の下がったショアが応援にきてくれた。気づいた吉田コーチと車に乗ったままグータッチ。無念の表情。

 そりゃそうさ。いつだっていろいろあるんだよ。これもまた糧。もっと高いところへの燃料よ。今日は仲間が頑張るから、しっかり見ておいてくれよな。

 

 アップ開始。

 軽くダッシュ。少し上げて。もう少し上げて。全力で。それからパス交換。ワンツー入れて。タクミはもう大丈夫そうだ。次は君の番だ。1対1。ユウセイ、踏まれたか。4対2、トリカゴ。ソウマ、また痛そうだな。

 最後にシュート、強く、抑えて、狙って!オイ!オイ!オイオイ!

 よし、しゅうりょう~ 準備しよう!

 

 ソウマ、ちょっといい?

 (きょとん)

 痛い?

 はい。

 かかと。

 はい。

 そうか。あのさ、俺さ、君のファンなのよ。

 だからさ、焦るなよ、またプレーしような。

 (きょとん)

 

 なんか上手く言えなかった。

 あの優雅さ。いつの間にかそこに居る。場所を空けられる。近くと遠くの使い分け。

 ちょっと草加東では見たことないプレイヤーだと思っていて、もしかしたらレドンドじゃないかと思っていて、だから。ああ、また100%でプレーできるようになって、強度の渦に呑み込まれない術を身に着けてくれたら、きっときっと、と思っている。

 だから何かできることがあれば、でもなかなか伝えるチャンスが無くて、でもなにもこんなタイミングでなくてもいいんだけど。


 試合前ミーティング。

 おお… みんないい顔してるな。

 あとはやるだけ。大丈夫。絶対やれる。

 吉田コーチからスタメンとポイント。

 リョウマ。ショウゴ、マヒ、リュウセイ。ユウシン、アキ。オリト、カケ。

 10、17。77には特に厳しく。オリトがちょっと下がって、後ろからボールをもらうこと、セカンドボールに絡むこと。全 員、もちろん、球際、集中力、運動量。慌てない。気持ちで負けない!


 保護者エリアにショアが座ってる。みんなでグータッチ。本大会で一緒にやろうぜ。

 それから円陣。

 1年生ってほんと円陣が好き。柿木だって川小だってゲームになったらまずは円陣。君たちだってそうだった。あれから何百回、飽きるほど円陣組んできたけれど、今日は少し特別な。

 

 絶対勝つぞ!

 オーーーーーーーッ


 さぁ、行くぜ ‼

 

 (続く)